「酒米を作ってみないか。」壱岐島で共創する米農家さんの想い②
30年前なら受けなかったかもしれません。
けれども30年の経験と知識、仲間との信頼関係がある今だからこそ、新しい挑戦を楽しむ余白があるのです。
「食べる米」ではなく「飲む米」を作る。
その違いは、粒をいかに大きく育てるかにあります。
通常20〜30本植える苗を15本前後に間引き、一粒一粒を大きく育てる。
中心の「心白」が大きいほど麹菌が入りやすく、酵母も働きやすい。
結果、発酵が効率的に進み、良い酒になるのです。
農協の職員に相談しながら、これまでの米づくりとは違う挑戦を始める。
70歳になっても、まだまだ楽しい。
新しい知識を吸収しながら試す作業は、若い頃に感じた“ワクワク”を思い出させてくれます。
同じ島で、情熱をもって酒を仕込む若い世代を、自分の経験で少しでも支えられるなら、それも大きな意義だと思います。
自分一人で完結しない稲作の先に、誰かの夢や情熱が重なっていく。そこにやりがいを感じています。
昔は農家に牛がいて、田を耕し、稲を食べ、堆肥となってまた田に還っていった。
今はその形こそ変わったけれど、自分の田で出た稲を畜産農家に渡し、逆に助けてもらう。
そこには昔から続く「共生」があります。
時代とともに形を変えながら、今は酒蔵もその輪に加わる。
「共生」と「好奇心」。
食用米が不足する時代に、あえて「飲む米」をつくる挑戦は、逆風のようでいて、実は未来を広げていく力になると信じています。
米という小さな一粒から、島の暮らしと世界をつなげる挑戦が続いていくのです。