弟の燃やし続ける情熱

重家酒造横山太三 弟の燃やし続ける情熱


「継ぎたい」じゃない。
「助けたかった」——。

高校生の頃、夜な夜な一人でラベルを貼る母の姿を見て、心に火がついた。
その火は、家業を継ぐためではなく、家族の苦しさを、どうにかしたいという衝動だった。
大学を卒業し、営業職として働いた数年。その経験を抱えて、焼け落ちそうな蔵へ戻った。
設備はボロボロ。販路はゼロ。
でも、「うまい」と言ってもらえる焼酎を、この手で誰かに届けたかった。

蔵の片隅に眠っていた、15本分だけの古酒「確蔵」。
10年以上前に仕込まれたその酒は、この蔵の歴史が最後に遺してくれたギフトのように思えた。
知らない街で、その1本を手に飛び込む営業の日々。
大人になって初めて飲んだ実家の酒は、驚くほどうまかった。
昔ながらの手法で造られたそれは、癖がある。でも、それが良いと思った。
酒も、営業も、「分かる人にだけ届けばいい」と信じて、動き続けた。
そして、一本一本の出会いを積み重ねた先に、“分かる”人たちがいた。
それが、本当の始まりだった。

やがて、酒づくりは焼酎から日本酒へと広がっていく。

水、設備、米。すべてにゼロから向き合い、形にしていく過程は、まるで川の流れのようだった。
障害を避け、地形に沿い、進める道を見つける。
止まらず、溜め込まず、流れながら学び、挑み続ける。
兄が「岩」なら、弟は「川」だ。
岩が支えるからこそ、自由に流れることができる。
そして、川は時に岩を削り、風景そのものを変えていく。
「守る」より、「変える」ことこそ、自分の役割。
導入した最新設備も、変えた営業のやり方も、すべてはこの蔵を“進化”させるためにある。
流れ続けることを恐れず、形を変えながらも、決して熱を失わず、ただ、前へ。
その勢いが、新たな酒を生み、蔵の未来を切り拓いていく。
山の父が築き、岩の兄が支え、そして——川の弟が、流れを生む。

火は、今も燃え続けている。
まだ見ぬ地平へと、誰よりも速く、
誰よりもしなやかに。


重家酒造 横山太三 弟の燃やし続ける情熱


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