「蔵を作ってから出直しておいで」

よこやま吟のさとができるまで


日本酒を造るために必要な米。
良い酒米を見つけては、その米を譲ってもらいたいと、全国、何軒もの酒米農家の門を叩いた。
しかし、そのほぼすべてが門前払い。蔵を持たない者には譲れない、と。

彼らの言うことも、もっともだ。
ただ夢を語るだけの人間のために、丹精込めて作る米を渡せるはずがない。
すでに契約している他蔵との契約を優先するのも、当然の通りである。

しかし、私は諦めなかった。
逆風の中、粘り強く探し続け、ようやく1人の農家が理解を示したのだ。
それからも、時間をかけ、ひとり、またひとりと、協力してくれる酒米農家が増えていき、
「山田錦」など良質な酒米の仕入れルートを形成していった。

「山田錦」は良い酒米だ。
しかし穂が高く、「春一番」の発祥の地であると言われるほど風の強い壱岐の島では、強風に倒れやすい。
そこから、導かれるように辿り着いたのが、「吟のさと」という品種の米である。
「山田錦」と「西海222号」の交配種であり、「山田錦」の味を持ちつつも、穂が低くく、温暖な九州の風土にも合う、まだあまり知られていない酒米だった。
実際に酒にしてみても、美味い。
やわらかさと、綺麗さが絶妙なバランスで成り立つ味だ。

「すべて壱岐の素材でできた日本酒を造る」

当初掲げた志を思い出す。
この米を、壱岐で作ることができれば、あるいは——。

しかしここでまた、新たな逆風が吹く。
「吟のさと」は、長崎県の「推奨品種」ではなかったのだ。
種も手に入りづらく、たとえ使用したとしても「吟のさと」という表記ができない。

そこでも、私は諦めなかった。
長崎県の担当者に直接働きかけ、「県の推奨品種」とするための試験栽培をスタートさせた。
1年、2年を酒造りを積み重ね、2025年現在、試験栽培の3年目を迎え、県からの正式認証も目前である。

こうして私はやっと、長い酒造りのスタート地点に立ったのだ。
壱岐の、強い強い風。しかし逆風も、いつしか向きが変わり、追い風になる。
島で育った私はそれを、身をもって知っている。


よこやま吟のさとができるまで


壱岐産日本酒 誕生ストーリー
「よこやま 吟のさと」 ができるまで(1/3)

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


Instagramではより多くの画像を添えて投稿しております。
ぜひフォローをお願いします。


壱岐の重家酒造 Instagram『重家酒造 公式 Instagram』