日本酒の仕込み【六】- もろみの声を聞く -

タンクの中では、
すでにもろみの息づかいが始まっている。
ぷつ、ぷつ──
静かなもろみ室で酵母が働く音が、かすかに響く。
職人はタンクの縁に立ち、香りを確かめる。
もろみを舐め、昨日より甘いか、酸が立っているか、温度がどれだけ動いたか。
櫂棒でそっと泡を割り、液面の表情をのぞき込む。
今日は穏やかで、明日は荒々しいかもしれない。
もろみは、生きものだ。
分析データだけではわからない、
変化の“気配”を読むために、職人は毎日ここに立つ。
静かに。ゆっくりと。
搾る直前まで、
ただ、見守り続ける。

