黄金の麦が、美しい理由 ― 壱岐の麦畑・春 ―

5月。壱岐の麦畑は、島の風景を一変させる。
冬には黒い旗が立ち、
春には静かな緊張が漂っていた畑が、
いまは一面の黄金色に染まる。
この景色は、偶然ではない。
2年前の不作があった。
雨が続き、根が傷み、
思うように穂を実らせられなかった年。
その記憶は、
畑のつくり方を変え、
種をまく時期を見直し、
人と人のあいだの距離を縮めた。
冬の黒い旗は、
鴨から麦を守るためだけのものではない。
「今年こそ守る」という意思表示だった。
春の畑では、
生産者、JA、酒造が状況を共有し、
早めに兆しを読み取ろうとした。
天候は選べなくても、
備えることはできると知ったからだ。
そして5月。
麦は黄金色になる。
この麦は、やがて壱岐焼酎になる。
島の外へ出て、「壱岐の味」として誰かの手に渡る。
黄金の麦畑は、ただ美しいだけの風景ではない。
それは、関わる人たちが選び続けた結果であり、
協力の結晶でもある。
風に揺れる麦の一粒一粒が、
そのことを静かに語っている。

