兄弟、語り合って酒を醸す

よこやま ちんぐの重家酒造


兄弟で蔵を営む。それは「役割」を超えた、生き方の話。

始まりは蔵を畳むか否かの瀬戸際だった。
弟からの一本の電話が、兄を故郷に呼び戻した。
酒づくりの経験はゼロ。設備は老朽化し、販路は島の中だけ。
ゼロどころか、マイナスからの再始動だった。

兄は黙々と受け継いできた「焼酎」製造に向き合い、弟は外に向かって販路拡大に走りながら、7年前には「日本酒」製造を復活させた。

安定を求めていた兄は、数を絞って勝負をしたかった。
弟は真逆。思いつけば、試す。種類も手段も惜しまずに展開する。
その速度と柔軟さに、兄は最初こそ戸惑いを感じていた。

「(それでうまくいくのだろうか。)」
心に浮かぶ疑念を、しかし口にはせず、信頼した。
そして、信頼の先に光があった。

一方で、「兄との対話は、確認作業に似ている」と、弟は言う。確かな兄の舌を信頼しているからだ。
自分の舌と、兄の舌が同じ結論を出したとき、ブレが確信に変わる。その感覚が、自分たちが作った酒を信じさせる。

互いの姿勢に刺激を受けながら、次第にバランスを取るように、兄は「試す」ことを受け入れ、弟は「軸を持つ」ことを学んだ。

山のように動かなかった父、勢いのある川のような弟、そのバランスをとった岩のような兄。
この絶妙な構図が、今の蔵の基盤を作ったのだ。

一人でなく、兄弟二人だからこそ。
固定された伝統ではなく、進化する伝承を感じさせる、そんな酒づくりが、今日も積み上がってゆく。
焼酎と日本酒。土俵は違えど、目指す先は同じだ。
確かな一本を生み出すこと。香り、温度、舌触り。そのすべてに宿る「らしさ」を求めて、二人は今日も意見を交わす。

リレーのように繋いだバトンは、いつしか並走する伴走に変わった。
肩を並べる兄弟が醸すのは、進化する伝統そのものだ。


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